2015年07月20日

某月某日

蒸し暑い。

帰り道にある駅前のパン屋。いつも閉店後この時間になると売れ残りを割引で出す。夕飯を適当に食べ過ぎた、こういう日はよくお世話になる。
白身フライのサンドイッチ片手に、もうひとつ食べようかどうしようか悩んでいると、後ろから怒鳴り金切り声。
「遅えよ、はやく選べよー」
酒焼けした女の声。「選べ」の「ら」にやたらアクセントを付け、「よー」は甘えたように伸ばし気味。至極薄気持の悪い発声。
その不快さもあって、最初は俺に向けられた言葉だと思ってカチンと来たが、確かにさっきから迷い過ぎだが、ちらっと振り向くとそうでないことがわかった。
先程の声に見合うディテールを書くのも嫌になるようなバカみたいな格好した女、いや母親の隣には、小学生くらいの男の子。おそらく本人の意思とは関係ない、こちらもバカみたいは格好、をさせられている。そしてなぜか左手に風船を持っている。あとは魔女みたいな母親とお揃いのTシャツ、バッグ。泣き出しそうな顔。
俺はちょっと見ていられなくなって、二つ目のパンを諦めて会計へ。それでも男の子が気になって横目で盗んでしまう。
「選べよー!」
母親はどうみても酔っ払っている。足元も覚束ない。更に醜悪な光景だ。
男の子はこんなことは馴れっこなのか、それでもクリームパンを選んで母親に差し出す。
「いらねーよ」
そのパンを、女は受け取らず、それどころか男の子の手からはたき落とす。他のパンの上に放り出されたクリームパン。
男の子はじっとそのクリームパンを見ている。母親、いや女はその男の子を気に入らなさそうに睨んだあと、汚ねえ付爪だらけの手で、息子の風船を掴んだ。
破裂音がした。どこか遠いところで、のように思えた。
もう俺は我慢できなくて、それでもパンだけは買って、逃げ出してしまった。
なんかもう、涙が出そうだった。
「子どもは親を選べない」「こどもの私物化」
そんな使い古された言葉が頭を駆け巡る。

蒸し暑い。





posted by 淺越岳人 at 00:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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